akechi’s diary

今日も大丈夫です

【200117】読んだ:飛浩隆『自生の夢』

びっくりして二回読んだわ。

 

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【あらすじ】
<忌字禍(イマジカ)>。天才詩人アリス・ウォンを食って生まれたその災いによって、世界の言語システムは崩壊しようとしていた。未曾有の怪物を滅ぼすため、言葉によって過去73名を絶命させた稀代の殺人者が召喚される――。

 

ちょっとめちゃくちゃ面白かったな……。このまま何もなければ2020年のベストなんじゃないか。半年くらい前から読みたい本リストには入れていたんだけど、もっと早く読めばよかった。久々に本を読んで興奮しました。

 

飛浩隆『自生の夢』は、同タイトルの中編を核に据えたSF短編集。あらすじからもわかるように、本書では言葉や詩といったモチーフが重要な役割を持つ。未踏地域の踏破や科学の発展、コンピュータサイエンスみたいな概念がある程度掘り尽くされて以降、SFは数学的、あるいは言語的(突き詰めると同じものなのかもしれないが)な分野の地平を切り拓き形而上方向へぐんぐん先端化していっているわけだけれど、本書はそれ自体が極めて官能的なイメージを湛えた詩であるという点でほとんど唯一無二なのではとすら思う。

 

SFがscienceを展開してmathmaticsやlinguisticsの方向に純化していったのは「なりたち」そのものを明らかにしたいという欲望(すなわちmathmaticsは世界を、linguisticsはわれわれ自身を)なのではないかと思うのだけれど、われわれという存在を定義しようとする言語的なこころみは、言語の限界を超えた場所へ到達することはとうぜん出来ない。ただ本書に登場する殺人者・間宮潤堂――30年以上前に死んでいるが、残された膨大な著作から再構成される――のように、膨大なテクストの共鳴から<編み上げられるもの>は、言語的でありながら言語では到達出来ない地点まで届くのかもしれず、それがある側面では詩であり、ある側面では次のシステムであり、どこかの一側面ではわれわれ自身であるのかもしれないですね。ついそんなことを考えてしまう読書体験でした。

 

自生の夢 (河出文庫)

自生の夢 (河出文庫)