【191021】読んだ:津原泰水『ヒッキーヒッキーシェイク』
インターネットで揉めてたやつ。
【あらすじ】
「不気味の谷を超えないか? 人間を創りたい」
引きこもり支援カウンセラー・JJこと竺原丈吉(じくはらじょうきち)の誘いに応じた4人の「ヒッキー」たちは、究極のバーチャルモデルの作成を企てる。互いが互いの素性を訝りながらも完成していく女性型CGプログラム「アゲハ」。そこに現れた天才ハッカーJellyFish、そして暗躍するJJの真の目的とは?
思っていたのとは違う方向性だったけど、良かった。
「不気味の谷」とは、人形やCGの造形精度を人間に近づけていったときに、一定のレベル以上で急にそれがよそよそしく不気味に感じられてしまうという認知のバグによる現象のこと。ある地点まではその造形に対して「人間らしさ」を認識していた脳が、一定のリアルさ以上では「本物の人間との差異」に注目してしまうことが原因だと聞いたことがある。
つまり「人間らしさ」と「非人間らしさ」というのはとても不確かなものであるわけで、「ヒッキー」というある意味での欠落=非人間性、を抱えたキャラクターたちが不気味の谷を横断しうるCGを創る、という構造から、じゃあ人間の定義ってなんだ?とSF的に話が展開するのかなと。当初はそういう読み味を期待していたんだけど、割と早い段階でSFというよりはちょっとジュブナイルな伊坂幸太郎的群像劇にシフトした気がする。『神様のパズル』*1かと思ったら『ラッシュライフ』だった、という感じ??
実際の内容としてはヒッキーに自らの欠落=「(非)人間らしさ」と向き合わせるのではなく、それを抱えた彼らでもこんなことができるんだよ、というものすごく前向きというか懐の広い人間讃歌で、安直なSF的モチーフへの欲望じつに罪深いですねということで、冒頭に書いたとおり、むしろSF路線ではなくこれで良かった。
それはそれとして同作者の『五色の舟』は国内短編SFの傑作として名高いのだよな。読もう。